D' [ディーダッシュ] ©1987 Tecno Soft [テクノソフト] ストーリー

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照明一つない部屋に、数人の人間が一人の背の高い男を囲むように座っている。
彼は黒ずくめであり身動き一つしないが、目は異様なほどギラギラ輝いており、つけいる隙も無い。 まさに野獣の群れそのものである。中央の男がさっと紅蓮のエールの入ったグラスを掲げると、部屋の中空になんとも形容しがたい形の生物のホログラムが写し出された。男は叫んだ。「見よ!我らが悲願コードDを、後は最終実験を残すのみだ。すばらしいではないか、これが完成しさえすれば、無能な連邦等恐れるに足りぬ。 我らの指先一つで世界が回るのも時間の問題だ。」室内に歓声があがった。
男が一口エールを含むと、あのグロテスクな生物のホログラムのすぐ横に、新たに緑色の惑星のホログラムが写し出された。 「殖民惑星ヴァイタル。この原始的で汚らわしい惑星こそ、Dの最終実験場として相応しいだろう。」 男は一気に飲み乾しグラスを床に叩き付けた。透き通ったグラスは鋭い音と共に割れ破片が四方に飛び 散った。周りの者達も一斉に立ち上がり同じ動作を行った。
「総ての手筈は既に整っている、後は時を待つ だけだ。ふはははは・・・・・」
狂気に満ちた笑いが渦となってひろがっていった。

 ノア405-20型宇宙大型輸送船「ソフィア」。連邦惑星ローフルで新造されたその300メートルにも及ぶ船体は、 ほぼ完全に自動化され、それらは総てソフィアの中央にあるマザーコンピュータ「ジェニファー」にコントロール されている。乗員は航海法(*)規定の最低人数4人。自由奔放な性格のディック、紅一点のルイス、リーダー格である碧眼のロイド、知恵袋白髪のベルナーである。ソフィアは、移民と開発物資の輸送のため連邦惑星ローフルから殖民惑星ヴァイタルへ向かう途中で、 一週間滞在の予定で人口惑星ラゴに立ち寄り、船の修理と補給、移民の健康チェックを受けていた。
ラゴ滞在5日目、突然ベルナーが船をおろさせられた。不審を抱いたディック達は会社に問い合わせたが、はっきりした回答は得られなかった。そしてベルナーの後釜として、長身の2等航海士キースが会社の推薦で船に乗り込んできた。半年前の事である。ジェニファーが航法をハイパードライブから恒星系内ドライブに切り替えた。 これは目的の恒星系に入った事を示している。 後一週間もかからないうちに、最終目的地惑星ヴァイタルに つくだろう。予定に狂いはない。ロイドはブリッジのコンソールを操作し、最終的な軌道の修正を始めた。キースはソフィアの各ブロックの点検に行ったまま戻ってきてはいない。ルイスとディックは、担当外のためコールドスリープ状態である。 沈静とした時間が過ぎてゆく。

突如船の左舷後方から鋭い衝撃が走った。警報がけたましく鳴り響き、DANGERシグナルがEブロックで点滅を始めた。計器が次々にレッド状態になっていく、ジェニファーは外部隔壁損傷とロイドに知らせた。 「外部隔壁損傷?アステロイドか!?ばかな、そんな物はレーダーには反応していなかったぞ!」驚いたロイドは船内監視モニターをEブロックに合わせた。ロイドの顔が青ざめる。「これは・・・・・・」 ロイドはすぐさま、ルイス、ディックのコールドスリープ装置の緊急解除スイッチを入れEブロックへと向かった。 手には強力なビームライフルが握り締められていた。1時間後、ルイスとディックがコールドスリープから目覚めた。
ここから本当のストーリーが始まる。

*連邦宇宙航海基準法

恒星間航行の場合ハイパードライブ(亜光速航法)を使用しても到着までには2年以上かかるのが普通である。 そのような長時間航行でも安全に航海出来るのは、船の操舵関係等を総てマザーコンピュータに任せることが 出来るため、パイロットの負担はほとんど無いからである。しかし連邦宇宙航海法の規定により、万が一の為にその間パイロットは最低2人1組となり、それぞれの組が交互に船の監視を行わねばならないことになっている。
もう一つこのことに関連する航海法の規定について付け加えると、一組のパイロットが1度の航海で監視を行えるのは、1年半が限度であると定められている。このソフィアの場合オーナーがケチったのかは知らないが 航海法規定最低の4人で航海していることになる。また担当外のパイロットはコールドスリープを用い、老化を 抑え延命することが普通になっている。さらに2年以上の航海の場合には、移民は総てコールドスリープ状態にする事も、航海法により義務付け られている。



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